ジョディ・フォスター

 ヒメアノ~ルという映画はとにもかくにも圧倒的にすごい映画だ。出てくる暴力描写、殺人描写の数々がすべて「こちらの身に降りかかってくる」のだ。暴力とは本来、他人事ではないし、娯楽でもエンターテインメントではない。このヒメアノ~ルという映画には、そんな暴力の「本当の姿」が映しだされている。人はなぜ暴力を行使し、時に暴力に魅力すら感じてしまうのか。そして暴力によって生まれる負の遺産、暴力を振るった側の行き着く境地、それらがすっきり完璧に99分の中で描かれている。

 人殺しをサイコパスだの人外だの罵って、自分は絶対にそんなことはしない!と声高に宣言することは簡単だろう。しかし、一度も暴力を振るったことのない人間などこの世の中に存在しない。暴力に「他人事」はない。どんな人でも、どんなに苦しくても、避けては通れない、向き合わなければならないテーマなのである。

 そのテーマを、ヒメアノ~ルは徹底して描き、信じられないほどに優しい結末へと着地させる。その優しさは、暴力を振るってきた人間の「反省」でもあり、暴力を他人事として避ける人たちへの「挑発」でもある。グロ描写が苦手だとか、重いテーマが苦手だとか、この映画を避けたくなる気持ちはわかる。だって暴力ってそういうものだから。でも、ひとりでも多くの人にこの映画を観てほしい。そこには強姦の不快感と殺しの禍々しさが確かに「現実」のものとして存在し、その果てに「人間が人間たらしめるための希望の光」がきっと見えるから。