2015年の映画について

 去年に劇場で観た新作映画のベスト10について、それぞれの作品に愛あるコメントを添えるなどしていきたいと思います。最下位から順に1位に遡って書いていく「最後まで読めよ」系のベストの書き方が僕はあまり好きではないので、1位から順に書いていきます。あなたがいつ途中で読む気を失ってページを閉じても良いように!

 

トゥモローランド

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  大好きなブラッド・バード監督の撮る夢ある未来と絶望の未来、その両者の先にある確かな希望の光、僕はこの光にどれだけ救われたことか……初めて劇場で観た時は上手くは呑み込めないまま「なんかすげえ!この映画!」と思い、そしてもう劇場で二回目を観る機会もないのだろうなと思っていたら、なんと劇場鑑賞券が偶然にも当たったので二回目を観ることになる。

 そして観た二回目の感動!こんなに希望があふれていて、かっこよくて、とてつもない愛と勇気と女の子への純情の詰まった映画がこの世に存在しても良いのか…!複雑でまわりくどい語り口も、既視感ばりばりのトゥモローランドの景観も、ちょっとウザったいケイシーもアテナちゃんも童貞こじらせてるフランクおじさんもマイケル・ジアッチーノの音楽も全てが泣けるぐらいに最高!この映画と同じ時代、世界、空間に生まれることができて最高にしあわせな気分!ありがとうブラッド・バード監督!どんなにコケようがこの映画は確かに僕の人生を変えたよ!

 

②ラブ&ピース

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 これまた大好きな園子温監督の、夢に向かってのし上がる男の大青春映画にして、手作りのぬくもりあふれる特撮怪獣映画!どんなに社会的に成功したって、どんなにみんなにちやほやされたって、たったひとりの壮大な愛には敵わない。たったひとりの平和を願う心には敵わない。なんて無垢で真っ直ぐで切実な物語なんだろう…こんなにも最高の純度の愛の結晶が凝縮された映画を僕は観たことがない。

 どんなに貶されても構わないし、どんなに世の中を敵に回したって構わない。全ては愛で解決するし、愛は自分にとって必要のないもの全てを破壊しさえするのだ。日々くだらない広告や看板で無神経に謳われる「愛」ってのは、実際のところはこんなにも巨大で破壊的で凶暴だったんだ。この映画を観た今、世界平和がとてつもなく現実味を帯びてくる。実現可能とか不可能とかそんな次元の話をしても何にもならない!まず信じるんだ!愛と平和を!

 

③ザ・ウォーク

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 一足先に109シネマズエキスポシティのレーザーIMAX3Dで観た映画。『ゼロ・グラビティ』みたいなびっくり体感映画だと思ったら180度まるで違う、ロバート・ゼメキスなりの『地獄でなぜ悪い』にして『風立ちぬ』系の映画、圧倒的クリエイター賛歌にして、ものづくりの快感の先にある暗がりの絶望すらも見せてくる「フィクションとノンフィクションをひっくり返す演出」に涙なしには観られない。

 何かを成し遂げようとすること、何かに立ち向かった行くこと、その気持ち良さ、美しさ、そして残酷性、その全てが3Dで目の前まで迫って来る。かつてはただの見世物の道具、飛び道具のように扱われていた下品な3Dは、ここまで人の胸を揺さぶる「芸術」になったんだ。3D映画の意味、人が何かに挑戦する意味、その先にある「現実」とどう立ち向かっていくのかと言うこと、全てがこの映画にある。現実を越えた3Dが1月23日から日本で公開される!宇宙に生まれて良かった!

 

④チャッピー

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 ニール・ブロムカンプ監督の作品はさして好きではなかったのだけど、これに関しては胸ぐらを掴まれて呼吸が困難になるほどブンブン振り回された挙句に川に突き落とされるような衝撃があった。Die Antwoordの曲もハンス・ジマーの電子音ピコピコ音楽もハマりにハマっていて、確実に脳神経を破壊する作用がこの映画にはあると思う。

 なんせ人工知能問題をここまで華麗に誤魔化しながら自分独自の精神論に持って行く強引過ぎる強烈演出にクラクラするほど感動する。序盤と終盤で全然違う話してるのに「全然違う話してるじゃん!」とは言わせない映画としての惚れ惚れするほどの強度!最後の最後での結末の希望なのか絶望なのかわからないあの気色の悪い後味ったらもう「映画の本質はこれだ!」って喉から血が出るほど叫びたくなってしまう。無断カットのレイティング下げは二度としないでほしい

 

リアル鬼ごっこ

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 こちらも大好きな園子温監督の映画で、監督が原作を読まずに映画化という映画史に名を刻む行為をやってのけた作品。とにもかくにも園子温のエッセンスが凝縮されていて、園子温のエッセイでの言葉、詩の中の言葉、インタビューでの言葉ひとつひとつが全部映画にぎっしり詰め込まれていて、ある意味、今年の四本の中では1番園子温らしい映画かもしれないとも思った。

 これは軽いネタバレだけど、原作が「リアル鬼ごっこ」=「リアル(つまり実際にやる)鬼ごっこ」だったのに対し、園子温の映画版では「リアル鬼ごっこ」=「リアル(が鬼の)鬼ごっこ」になっていて、登場人物達はシュールで理不尽な「リアル」から追われるという話になっている。まずこういう宗教っぽい話が本当に大好きだし、こういう話に対する園子温なりの決着のつけ方も大好きすぎる。彼自身が映画監督で、後に『みんな!エスパーだよ!』の劇場版を監督しているという事実すらも効いてくるメタメタのオチにしびれる。自殺サークルと比較しても面白すぎる。

 

バクマン。

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 こんなにも愚直で残酷で泥臭くて希望にあふれてるものづくり映画が邦画のメジャーで生まれるなんて!今年1番の邦画の奇跡だと思う。こんなにも自分をしっかりと抱き締めてくれて、励ましてくれて、応援してくれる映画はない!本当にこの映画に関しては感謝でいっぱい!ありがとうの山盛り!

 どんなに苦しくても、どんなに好きな女の子との関係がネガティヴになろうとも、諦めずに夢に向かって全力な男の美しさを見よ!創作の快感を知れ!友情の尊さ!そして世界を制覇したような勝利の全身から沸き踊る心地良さ…この映画には青春の全てが詰まっている。最後のエンドロールで微笑む彼女…全ての終わりこそが、全ての始まりなんだ!もし君に彼女がいなければ、彼女を自分で描けばいいんだ!

 

⑦スポンジ・ボブ 海のみんなが世界を救Woo!

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 マリファナもコカインも必要なし、この映画さえ観ていれば気分はあっという間にハイになれるし、恋人がいないことも社会に蔑まれていることも親子関係が上手くいっていないことも全てが綺麗さっぱりどうでも良くなる。本当にどうでも良くなるから精神状態の怪しい時に観ると危うくベランダから身を投げたくなる。

 とにかく前衛に前衛が突き詰められた映像の現代アートのような映画で、メタ演出も社会風刺も下ネタも薬物映像も何でもござれ、一度観ただけでは絶対に全編の情報を咀嚼することができない。そして人は繰り返しこの映画を観、延々と抜け出すことのできない魔のループに陥ってしまう。ホラー映画の100倍は恐ろしい映画にして、その辺のコメディの100倍は笑えるという、たぶんこの世に存在してはいけない映画。本当に大好き。

 

⑧ハッピーボイス・キラー

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 好きな女の子のことが好きすぎて好きすぎて遂にはうっかり殺しちちゃった!みたいな話をコミカルでちょっとおしゃれな演出でスタイリッシュに描く演出がサイコすぎて変な笑いが出る。主人公が明らかにどうしようもない狂人なのに一切突き放したりせずにちゃんと寄り添って最後まで描ききる演出の優しさに救われる。そしてその極致のエンドクレジット。死をも超えた快感の洪水。

 あまりに現実が厳しいと誰しもがこうなってしまうのだ。好きな子に好かれなければ好きな子を殺して自分の妄想の世界で恋を自己完結してしまいたくなるし、自分の悪行の数々だってヘラヘラしながらイエス様に赦してもらいたくなってしまうのだ。現実逃避に映画を観る僕らに「お前らやばくね?」と投げかける、最高に愛おしくて最高に性格の悪い映画。

 

⑨ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール

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 果てしなくおしゃれでどこまでも切なくて気が狂うぐらいに残酷な非道の王道青春映画。こんなにも精神をズタズタに引き裂かれる映画はめったにない。恋が始まり、夏が始まり、青春がおしゃれにゆったりと始まっていくが、その刹那は永遠には続かない…続くように見せかけてやっぱり続かない…物事のすべてには終わりがあって、ちゃんとその先があるのだ。

 MVなのか映画なのかわからない微妙すぎる演出でスクリーンの向こう側の世界とこちら側の世界の境界線をあっという間に曖昧にし、ありえないほどの映画との一体感を感じながら、各々の登場人物に感情移入したり腹を立てたり悲しんだり…そしてエンドロールで流れる童貞のどうしようもない戯言…涙が止まらなくなる。自分という人間の愚かさに…情けなさに…浅ましさに…ごめんなさい…

 

⑩ビッグ・アイズ

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 ハリウッドという巨大市場の第一線で自らの個性をむきだしに発揮し続けるバートンなりの「ビジネスとアートの関係」論みたいなものを展開しながらも、ものづくりの楽しさ、辛さ、そして自分の作品の愛おしさをたっぷりたっぷりゆっくりゆっくり描く。バートンのアートへの愛を全身に浴びるような映画体験。

 そして今回のバートンは史実を描いているだけあって全体的にちょっと感じ悪くて、嫌いな人種を描いてはわざわざ「こういう奴、僕めっちゃ嫌いだから」みたいな宣言をする場面もちらりほらりあるのがニヤニヤする。久しぶりにバートンのこういうドライな嫌がらせを堪能し、より一層ティム・バートンという人間性に肉薄できたような気分になる。バートンだからこそ描けたこのテーマ、バートンだからこそ描けたこの切実性、どっからどう見てもティム・バートン!バートン愛してるよ!

 

 その他の好きな映画を画像なし(もういちいち探してきて貼るのめんどくさい)で軽く感想を述べていきます。去年は本当に好きな映画がたくさんあったので、本来ならあ以下の作品もベスト10に余裕で入るはずだった映画ばかりで、本当に去年の豊作っぷりに驚き桃の木ジェット飛行機。

 

風に立つライオン

 三池崇史監督だからこそ描くことのできる感動ドラマ。性格の悪い人間の描く直球ドラマ(パコと魔法の絵本とか)はいつだって嘘偽りのない感動があるし、観ていて本当に心が洗われる。ちゃんと描かれる人間のズルさ、切断された腕の切断面、紛争地帯でボカボカ人が死んでいく様、全てが物語を語る上での「必然性」でちゃんと描かれている(三池映画なのに!)心地よさ。たまにはこういう映画も良いなあとほっこりする。

 

進撃の巨人(二部作)

 原作のことはあまり知らないので、その辺のことについて言えることは何もないのだけれど、とにかく「世界観」がちゃんと違和感なく完成されていて、その世界で「童貞の下剋上ストーリー」が展開され、後編では「童貞が世界とどう向き合っていくか」が愚直に愚直に描かれる。ちゃんと残酷なところはしっかり残酷で、ちゃんとアツくて盛り上がるところは盛り上がる。後編に至ってはなかなか危ない社会風刺コメディとして観ることも出来、前後編共に大好きな映画。4DXで観たのも思い出深い。

 

人生スイッチ

 アルゼンチンの新人監督のオムニバス映画。とにかく真っ黒なユーモアを矢継ぎ早に繰り出しながら人間の本質をじわりじわりと炙り出していく性格の悪さに笑いが止まらない。ちょっとレトロな演出もキレがあって飽きないし、ひとつひとつのエピソードに全く何の関係もないのにひとつの映画としてちゃんと統一感があるのがもんの凄い気持ち良い。全人類をバカにしたようなオープニングクレジットも最高。

 

ナイトクローラー

 今年1番演技に衝撃を受けた映画。ジェイク・ギレンホールの胃もたれしそうなぐらい強烈な演技にかぶさる悪魔的に心地の良い音楽。夜の街並みにテカテカのスポーツカーを走らせながら死体やら事故現場やらを中腰で撮っていくギレンホール!とそれをついかっこいいと思ってしまう自分…何が悪で何が善かなんてお前ひとりが決めることじゃなくて世の中が決めることなんだぜ!善悪は強弱なんだ…ああ…めちゃくちゃクソだけどめちゃくちゃかっこいいよギレンホールさん。

 

キングスマン

 リズミカルな編集と楽しすぎるアイデア満載のギミックと熱すぎるドラマ…全てが圧倒的に面白くて途中から段々腹が立ってくる。一生かかっても俺はこの領域に達することができないかもしれないと思うと人生の虚しさを感じる。マシュボンだってマシュボンなりの苦労とか今まで散々あっただろうし、実際その苦労体験とかも本作で饒舌に語ったりしているけれど、やっぱりこちら側からしたらお前は「勝ち組」でしかないし、お前のことが心底憎いよ…羨ましいよ…お前のその才能ちょっとわけてくれよ……いや!絶対いつかお前に勝ってやる!お前の出鼻をくじいてやる!という気持ちで観ていましたマシュボン監督ごめんなさい。

 

ヒロイン失格

 邦画コメディ映画の最新アップデート版にして今年の最大の大穴作品。とにかくギャグが全部痛々しいぐらいにトンガってって、ひたすらそれだけで楽しませにくるのかと思いきや、恋愛パートもなかなか切実で健気で涙が出てくる。「貞子3D」シリーズを引きずったままの英勉監督がバリバリ3Dショナルなショットで演出をかまし、桐谷美怜が「振り切ったふりをして実際あんまり振り切ってない」微妙で繊細な演技をかまし、その混沌とした世界に振り回されているうちに映画は以外な「超王道」で見事に着地、そして西野カナの「トリセツ」エンドクレジット…本当にこのバカっぽくて切なくて気色の悪い感じが大好き。

 

ピッチ・パーフェクト(劇場で観てない)

 キャラクター全員めちゃめちゃかわくて、何度も観ているうちにどんどんますますぎゅんぎゅんかわいくなってきて、演出の粗とか物語の粗とかそんなことは全てどうでも良くなり、ひたすら彼女たちの勇姿を延々と見届けていきたくなる。アカペラのパフォーマンスはもちろんのこと、みなさん微妙な演技が本当にお上手で、特にオーブリー演じるアンナ・キャンプの後半から少しずつ心を入れ替えていく演技がこの世のものとは思えないぐらいに最高すぎる。

 ずっとずっと見えない何かに縛られていた女性が、何かをきっかけに解放された時に見せる笑顔ほど美しいものはこの世に存在しないと僕は思う。あのクライマックスのステージで髪をほどき、上着を脱ぎ、全身全霊でパフォーマンスするオーブリーの笑顔。ああいう笑顔だけを求めて僕は映画を観ていると言ってもいい。あの笑顔、あの笑顔だけを観ていたいんだ僕は!

 

22ジャンプストリート(劇場未公開)

  前作も最高だったのに対し、今作は「それと全く同じことをする」というヒドいギャグを基調にしながらも、ちゃんと二人の友情はより熱くなり、予算もテンションも上がりに上がって、本当に「ただ観ているだけで」しあわせになれる。

 メイキングでのフィル・ロード監督とクリストファー・ミラー監督の楽しそうな笑顔を観ているだけで胸がこみあげて来て「ああ…男に生まれて良かった!」と思う。気の合う親友と何かを成し遂げていくことの美しさ。ひとりで孤独に取り組むのも良いけれど、やっぱり人と一緒にわいわい挑戦するのは楽しいし、より自分の成長を実感できる。2015年はたくさん映画を作ってますますそれを実感した1年だった。

 

 その他にも好きな作品はたくさんあるけれど、何かもうめんどくさいし、こういう記事を書くことにどれほど意義があるかもわからなくなってきたし、この辺でもうやめようと思う。今、僕はパジャマ姿で倦怠期のカップル並みに冷え切ったコーヒーを飲んでいる。足元の暖房はあったかい。もうすぐお風呂が沸きそうだ。リビングからはテレビの音が聞こえている。今年こそはこんな状況から脱出してやる。今この瞬間にも、この部屋から逃げ出す準備はできている。逃げ出したい!逃げ出したいよ!でも逃げ出せない。なぜだろう!わかんない!嫌いな人みんな死ね!

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