4DXで初めて映画を観た話

 念願、悲願、睾丸、遂に4DXで映画を観た。観た映画は『進撃の巨人』で、これで三回目。内容もほとんど把握しているので、集中して4DXシアターの演出に没頭することができた。ちなみに『進撃の巨人』は超大好きだけど、オールタイムベスト級とかそういうレベルに好きなわけではなく、なんというか「邦画もここまで来たか!僕は嬉しいよ!これで安心して日本で映画監督目指せるよ!」という感じで、この映画が本当に好きというよりかは「作ってくれてありがとう」な感じ。そういう位置にある作品。

 シアターに入ろうとすると、荷物を預けるコインロッカーがある。なんという「身長制限が高めに設定されている大人っぽいライドアトラクション」感。すでに僕の心は相当ドキドキしていた。トキメキが止まらない状態だった。中学の頃、あの子の靴箱にラブレターを忍ばせた時ぐらいにはドキドキしていた。遂に4DXちゃんに逢えるんだね。ずっと逢いたかったよ。迎えに来たよ。この時が来たんだよ。

 何という座席のたくましさ。僕の不安定な心も丸ごと包み込んでくれるようながっしりとしたボディ、僕はその座席に身体を預ける。上映開始を待つ。スピーカーも意味のわからない威圧感を放っていて、いったいどんな音を聴かせてくれるのだろう、とそちらにもワクワク。すると突然にクソみたいなCMが流れ始めたので、しばらくの間、僕は昨日の晩御飯の献立などを思い出しながら気を逸らす。

 

 劇場の照明が完全に落ちる。僕と世界を繋ぐ糸が断ち切られる。この瞬間。この刹那。異世界へ飛び込むまでのこの数秒間。ああ大好きだ。僕は映画が大好きだ。僕は映画を観て、映画を撮るためにこの世に生まれてきたんだ。そうだよね映画の神様。

 

 映画が始まる。すると、オープニングから予想外すぎて序盤から過呼吸。座席は動く。映画内の世界と連動して動く。そして何とカメラワークに連動して動くのだ。カメラが右へ移動すれば座席も右に揺れる。左へ移動すれば座席も左へ。カメラが上を見上げると、座席も上を見上げる体制へ。まるで、まるで、大きなクレーンカメラで自分自身が目の前の映像を実際に撮影しているかのような感覚。ブロックバスター映画のメイキングなどで登場する、あの夢にまで見たクレーンカメラ。それに乗って、僕はこんなにも莫大な予算と時間とスタッフを費やして「今見ているこの映像を撮っている」のだ。僕は映画を撮っているのだ。信じられない。遂に僕は映画監督になれたんだ。

 映画の中で流れる心地よい風が実際に僕の皮膚に伝わる(後半になると割と真剣に寒くなってくる)。映画の中で流れる音楽が、爆音となって(むちゃくちゃ音が大きかった)僕の耳をぶっ潰しにかかる。僕は確かにあの世界にいた。そしてカメラをまわしていた。映画監督となって。主人公と一体になって。

 巨人が人を喰うあの瞬間、本当に震えが止まらなくなり、自分の歯がガタガタと音を立て始めた。こんなにも映画の世界に入り込んだのは何年ぶりだろう。血しぶきを浴びる。何度も何度も血しぶきを浴びる(水の効果はやっぱり少しウザかった。眼鏡をいちいち拭かなければならないので。水の効果に限りON/OFFの切り替えができる)。僕はあの時、絶望のど真ん中にいたんだ。絶望の中で、最愛の彼女すらも殺された僕。ああ僕はどう生きていけば良いのだろう。

 そして復讐の後半、立体機動で華麗に空を舞う僕。座席の耳元から空気砲的なアレがプシュっと吹き出し、その勢いに乗って僕はビルと巨人の間をスルスルと飛び舞う。なぜ僕は飛んでいるんだ。なぜなんだ。それはシキシマ隊長(個人的に『地獄でなぜ悪い』の平田を重ねてしまう)に言われた通りだ。俺たちは家畜じゃないんだ。人間なんだ。だから飛ぶんだ。

 そしてここからはネタバレになるかもしれないけれど(コミックスの流れと同じ)、遂に僕は巨人になる。絶望に絶望を叩きつけられた僕は、遂に巨人になる。巨人になるその瞬間、劇場で目を貫くほどのフラッシュがバシュっと出(効果的すぎて泣いた)、時空が一瞬の間だけ歪んだような感触に。俺は巨人になったんだ。全員ぶっ殺してやる。

 僕は巨人をぶっ殺しまくる。4DXちゃんに煙と水しぶきで応援されながら。石原さとみに脇で「こんなの初めてー!」とか言われながら。大好きなピエール瀧に微妙な顔で眺められながら。そして世界で一番大好きな彼女(この映画でのミカサ)に見つめられながら!僕は憎いやつを殺す!殺す!殺す!

 そして全員ぶっ殺した後、大好きな彼女を「ウオー」とか言いながら一旦持ち上げた後に元いた場所に返し、息絶えてぶっ倒れる。そして新生する僕。あたらな決意を胸に生き返る僕。

 そしてタイトルが出る。『進撃の巨人』。そのタイトルを出すタイミングはまるで『アバター』のそれのよう。というかそのまんま。中学二年生の冬、僕が『アバター』を劇場で観て映画好きになったあの瞬間は決して間違っていなかったのだ。映画なんか好きになってしまったばっかりに辛いことや苦しいこともたくさんあったけど、僕の選んだ道は間違ってなかった。正しかったんだ。その体験を通じて僕はそう確信した。もう迷うことなんかない。映画の道を突き進むしかないんだ。映画監督になるしかないんだ。

 僕はその勢いのまま劇場を脱出し、食べログで人気急上昇中かなんかの食堂でアツアツの唐揚げを口に放り込んで咀嚼した。するとあまりの熱さに口内の皮が剥がれ、今もその痛みに耐えながらこのブログを書いている。何という情熱。何という食欲。そんな僕が実は一番の『進撃の巨人』なのかもしれませんね。最後まで読んでくれた貴方、ありがとう、愛してる。今度100円ジュースとか奢るよ。